僕の名前は真田太一。
大学受験を控え、自宅と学校と塾を行き来するだけの平和で平凡な日常を送っている。
刺激もない、ただ時間と資源を消費するだけの毎日…。
この退屈な世界を変えられるなら僕は悪魔に魂を捧げても構わない。
細く長い人生をただ生きるくらいなら、短くとも太い人生を生きたいのだ。
「何か面白いことないかなぁ…」
そんな独り言がいつからか口癖になっていた。
◆ ◆ ◆
ある日、塾の帰りに1冊のノートを拾った。
お世辞にも趣味が良いとは言えない真っ黒な表紙のノートを。
その黒いノートは夜の闇に紛れつつも、異質な気配を放つことでその存在を強く主張していた。
手に取ると、表紙には『Death Note』と書かれていた。
「デスノート…直訳で死のノート、か。」
パラパラとめくってみたが、ノートは未使用のものだった。
しかし、ふと気づく。
表紙の折り返しに何か書かれているようだ。
そこには『How to use』と題され、細かい文字が記されている。
手書きに近い粗い文字。お世辞にも上手いとは言い難いその文字は正直読みづらい。
「つかいかた…ね。」
続く細かい英字の羅列。
恐らくこのノートの使い方が詳細に記されているのであろう。
「全部英語か…やっかいだな。。」
とりあえずノートを鞄に仕舞い込み、帰路に戻った。
◆ ◆ ◆
−−−−−−数日後。
学校から帰り自分の部屋へ。
すぐさま机に向かい例のノートを開く。
カリカリカリ…
姑くシャープペンの芯とノートが擦れ合う音だけが部屋に響いていた。
「…気に入ってるようだなァ」
ッ?! 突然何者かの声がした。
声の方向に振り返ると、そこにはこの世の者とは思えない風貌をした、長身の人影があった。
「うわぁッ!!」
「何をそんなに驚いている?
そのノートの落とし主、死神のリュークだ。」
わけがわからない…なにを言ってるんだコイツは?
ノートの落とし主? わざわざ取り返しに来たのか?
固まっている僕に痺れを切らしたように、死神を名乗る影が口を開く。
「その様子じゃそれが只のノートじゃないって事くらい気づいてるんだろ?」
「???」
「ケッ! まーだ状況が把握できねえのか。まあ無理もない。
どれ、ちょっとノート見せてみろよ。
惚けている僕を尻目に死神が机からノートを拾い上げる。
「この数日でどれだけ殺ったんだ?必死に書き込んでたようだが…
今の死神界でもお前ほど仕事熱心な奴はそういないぜ。」
「仕事…? まあ、学生にとって勉強は仕事っちゃ仕事だけど…」
「はァ? なにいってんだお前…って、おい!
なんでこのノート数式しか書いてねえんだよッ!!」
「え…数学のノートが切れちゃって、ちょうどそのノートを拾ったから。。」
「っカーッ! お前ちゃんと『How to use』読んだのか?!」
「や、英語苦手だし…訳そうとも思ったんだけどね…その、ほら。。」
「面倒だった、と?」
「…うん。」
「・・・・・・」
◆ ◆ ◆
「じゃあコイツは返してもらうぜ。 あー、また別の奴探すかァ」
死神リュークは僕からノートを奪うと黒く大きな翼を広げて部屋の窓から飛び去っていった。
「…あ、新しいノート買わなくちゃ。」
新しい数学用のノートを買いに近所の文具店を目指す。
「あれ?数学のノートって最近新しいやつおろさなかったっけ…?」
なぜかここ数日の記憶が曖昧だ。
が、大学受験を控え、自宅と学校と塾を行き来するだけの平和で平凡な日常…
取り立てて記憶に残る出来事があるはずもない。
恐らくは勉強に魂を詰めすぎたせいだろう。
受験までの数カ月、しばらくはこんな毎日が続くはずだ。
少し肌寒くなった商店街をゆっくりと歩きながら空を見上げて呟いた。
「はぁ… 何か面白いことないかなぁ…」
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(デスノート 〜真田太一の場合〜 完)